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◎ 今月のプログラム

著作権入門講座
(1)さまざまな権利
出版メディアパル編集長 下村昭夫

ユニ著作権センター学習会ノートより=著作権の基礎知識

一.著作物の利用形態と権利の種類
 著作者人格権と二つの対をなすのが、著作財産権であるが、著作物の利用形態に応じて定められている11種類のさまざまな権利(支分権)の集合体といえ、一般に「権利の束(bundle of rights)」と呼ばれている。
 吉田大輔著「明解になる著作権201答」(出版ニュース社)によると、著作物の利用行為の性質に応じて、次の4つの類型に分類されている。
 (1)著作物の複製に関する権利 ⇒複製権
 (2)著作物を公衆に見せたり、聞かせたりする権利 ⇒上演・演奏権、上映権、公衆送信権等、口述権、展示権)
 (3)著作物の複製物の移転に関する権利 ⇒頒布権、譲渡権、貸与権)
 (4)二次的著作物に関する原著作者の権利 ⇒翻訳権、翻案権、二次的著作物に関する原著作者の権利)
 また、半田正夫著「著作権法概説」(法学書院)によれば、「著作権は、著作物の利用形態に応じて発生した法的承認を受けた多くの財産的権利の源泉として、包括的な内容を有する支配権である。その具体的な内容としては、著作物を原状のままに利用する原状利用権、著作物の内容に手を加えて利用する改作利用権及び特殊な権利としての二次的著作物利用に関する許諾権に大別され、それはさらに個々の具体的権利に分けることができる」としている。

二.著作権に含まれる権利の種類とその解説
 以下、著作権法第2章第三款第21条から第28条に規定されている「著作権に含まれる権利の種類 」について逐条的に概説してみたい。
 著作権法第21条以下第28条までの11か条にに共通しているのは、「著作者は、その著作物を----する権利を専有する」という規定である。
 北村行夫著「判例から学ぶ著作権」(太田出版)によれば、権利を専有するとは、「著作者が著作物について、他者の意思関わりなく、複製その他の各行為による支配ができるということ、そのような支配権は著作者のみに帰する」とされている。したがって、差止請求権(第112条)を有する。

1.複製権(第21条)
 「著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。」  複製とは、「印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいう」(著作権法第2条第1項十五号)。
複製の例示として、「印刷、写真、複写、録音、録画」などがあげられているが、今後予想される新たな複製手段が登場すれば、もちろん、その方法による「有形的な再製」も「複製」も含まれることになるが、無形的な複製(上演、演奏、放送)は含まれない)。
 また、複製には、著作物と同一のものを再製する行為(デッド・コピー)だけでなく、「既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製すること」を含む(最高裁判決昭和53年9月:ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー事件)。

2.上演権及び演奏権(第22条)
 「著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として(以下「公に」という。)上演し、又は演奏する権利を専有する。 」
 無形的な複製のち、演劇の場合が上演、音楽の場合が演奏に当たる。上演、演奏には、これらの録音・録画画を再生することを含んでおり、生演奏に限らない。ただし、放送、有線送信、上映に該当する場合には、それらの条項により処理される。
 公衆とは、本来、不特定の者を指すが、この法律では、「不特定の者+特定多数」を含む概念である(第2条第5項)。
 また、演奏権の及ぶ範囲については、名曲喫茶、キャバレー、ダンスホール、音楽ショーなどに限定されていたが、その経過処置は、平成11年の改正で附則14条が廃止され、2000年1月からは、ホテル、喫茶店、パチンコ店などでのバックミージュックもその対象となった。
 なお、カラオケボックスにおける演奏は、特定少数であるが、経営主体が「不特定多数」を対象にしており、演奏権が及ぶと考えられている。  また、イベントや運動会などでの聴衆から料金を取らない非営利の演奏は、従来どおり、自由に出来る(第38条第一項)。

3.上映権(第22条の2)
 「著作者は、その著作物を公に上映する権利を専有する。」
 上映とは、「映写膜その他に映写すること」(第2条第1項十七号)をいうが、劇場の映写膜だけでなく、講演用の大型ディスプレイも含む。
 なお、従来、上映権は、映画の著作物を想定していたが、上映用ディスプレイの高精度化のなどの影響を考慮し、平成11年(1999年)の法改正により、写真や美術または文字も含めすべての著作物の上映利用にも権利が及ぶことになった。

4.公衆送信権等(第23条)
 「著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。
 2 著作者は、公衆送信されるその著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利を専有する。」
 平成九年(1997年)の改正で新しく規定された概念で、公衆に直接受信されることを目的とした無線通信または有線通信の上位概念として、公衆送信とを規定した。(第2条第1項第7号の2)
公衆送信は、次の概念に分類することができる。
(1)放送(第2条1項八号)
 同一内容の送信が同時に受信される特徴を持ち、テレビ、ラジオなど無線通信が該当する。
 (2)有線通信(第2条1項九号の2)
 同一内容の送信が同時に受信される特徴を持ち、有線で送信されるCATV(ケーブルテレビ)や音楽の有線放送などが該当する。
 (3)自動公衆送信(第2条1項九号の4)
 公衆からのリクエストに応じて送信するホームページのような送信がこれに該当する。
 なお、ホームページのサーバーなどの自動送信送信装置に情報を記録すること及び情報が記録された自動送信装置をインターネットなどのネットワークに接続すること(一般にアプロードと呼ばれる)を「送信可能化」を呼ぶ。
 (4)その他の公衆送信(第2条1項九号の4)
 上記三つの概念に該当しない公衆向けの送信を言い、公衆から依頼を受けて送信するファクシミリや電子メールがこれに該当する。なお、特定少数への送信は除外される。一般に特定少数の定義はないが、50人以下と解せられる。

5.口述権(第24条)
 「著作者は、その言語の著作物を公に口述する権利を専有する。」
 朗読その他の方法により、著作物を口頭で、伝達することをいい(第2条1項十八号)、朗その他、説教、講義、講演などが該当する。

6.展示権(第25条)
 「著作者は、その美術の著作物又はまだ発行されていない写真の著作物をこれらの原作品により公に展示する権利を専有する。」
 人の来集する野外の場所に美術の著作物又はまだ発行されていない写真の原作品(ネガフィルムでなく、オリジナルな紙焼き作品)を公に展示することであり、複製品の展示には及ばない。
 なお、美術の著作物の原作品の所有者はその絵画を公に展示する権利を保有する(第45条1項)。ただし、彫刻などを公園や広場の野外の公開の場所に恒常的に設置する場合には、著作者の許諾が必要となる(第45条2項)。
 また、岡本薫氏によると、マンガ喫茶における著作物の利用を「展示権の一形態」と解せられているが、マンガ喫茶における「店内閲覧は、場所限定の実質的な貸与」と解すべきと思える。

7.頒布権(第26条)
  「著作者は、その映画の著作物をその複製物により頒布する権利を専有する。
  2 著作者は、映画の著作物において複製されているその著作物を当該映画の著作物の複製物により頒布する権利を専有する。」
  頒布とは、「有償であるか又は無償であるかを問わず、複製物を公衆に譲渡し、又は貸与することをいい、映画の著作物又は映画の著作物において複製されている著作物にあつては、これらの著作物を公衆に提示することを目的として当該映画の著作物の複製物を譲渡し、又は貸与することを含むものとする。」である(第2条第1項十九号)。頒布権が独立の権利として認められているのは、映画の著作物についてのみである。
 なお、判例によると、「公衆に提示することを目的としない家庭用ゲームソフト機に用いられる映画の著作物の複製物の譲渡については、・・・・・当該著作物の複製物を公衆に譲渡する権利は、いったん適法に譲渡されたことにより、その目的を達成したものとして消尽し、もはや著作権の効力は、当該著作物を公衆に再譲渡する行為には及ばないものと解すべきである」(最高裁判決:02年4月25日)とある。

8.譲渡権(第26条の2)
 「著作者は、その著作物(映画の著作物を除く。以下この条において同じ。)をその原作品又は複製物(映画の著作物において複製されている著作物にあつては、当該映画の著作物の複製物を除く。以下この条において同じ。)の譲渡により公衆に提供する権利を専有する。 」
 譲渡権は、元々、映画の著作物の「頒布権」の一部をなすものと考えられていたが、諸外国では、「著作物全般」の権利としており、WIPOに加盟する関係から、1989年(平成11年)の改正で、新たに「譲渡権」が創設された。
なお、第26条の2の第2項では、「前項の規定は、著作物の原作品又は複製物で次の各号のいずれかに該当するものの譲渡による場合には、適用しない。」と次のように譲渡権が消滅する規定を設けている。
 これらの第一号から第四号までの規定は、「無体物を体現した有体物譲渡に権利が及ぶと不都合が生じるので、以下のように譲渡権が消尽することを規定している(北村行夫著「判例で学ぶ著作権」268ページ)」と解説されている。
 「 一 前項に規定する権利を有する者又はその許諾を得た者により公衆に譲渡された著作物の原作品又は複製物 」
いわゆる、「ファースト・セール・ドクトリン」を規定したもので、一旦、著作者の承諾を得て、適法に譲渡された複製物などの二次的な譲渡については、この権利は消尽する。
 「 二 第六十七条第一項若しくは第六十九条の規定による裁定又は万国著作権条約の実施に伴う著作権法の特例に関する法律(昭和三十一年法律第八十六号)第五条第一項の規定による許可を受けて公衆に譲渡された著作物の複製物 」
 いわゆる著作者不明の著作物の裁定による著作物の複製物及び万国著作権条約の実施に伴う著作権法の特例に関する法律の第5条の規定による翻訳物のないあるいは絶版になっている著作物の複製物の譲渡による権利の消滅を規定している。
 「 三 前項に規定する権利を有する者又はその承諾を得た者により特定かつ少数の者に譲渡された著作物の原作品又は複製物 」
 特定少数の者へのプレゼントのような譲渡には、譲渡権は及ばないこととした。  「 四 この法律の施行地外において、前項に規定する権利に相当する権利を害することなく、又は同項に規定する権利に相当する権利を有する者若しくはその承諾を得た者により譲渡された著作物の原作品又は複製物 」
 権利の消尽が国内だけでなく、国際的にも生じる(国際消尽)という立場から、一旦、適法に譲渡された以後は、譲渡権は及ばない事とした。
したがって、外国で、一旦、適法に市場に流れた複製物を買い付けて日本に輸入し、販売しても、その著作物の譲渡権は及ばない。

9.貸与権(第26条の3)
 「著作者は、その著作物(映画の著作物を除く。)をその複製物(映画の著作物において複製されている著作物にあつては、当該映画の著作物の複製物を除く。)の貸与により公衆に提供する権利を専有する。 」
 貸与権は、貸しレコード店の急増に対処するために1984年(昭和59年)に創設された条項である。04年の著作権法の改正により、2005年1月から「本や雑誌に対する貸与権」が確立した。
 04年10月に設立された「出版物貸与権管理センター」では、代行業者を通じて、レンタルブック店とレンタル業務契約を結び、許諾料を徴収、出版社から、著作者への許諾料の分配をビジネスモデルとして想定おり、ビデオ・CDレンタル店の業界団体である「日本コンパクトディスク・ビデオレンタル商業組合(CDVJ)」を交渉団体として、交渉してきたが、レンタルブック店の「貸出し猶予期間の設定」や「許諾料金」などについての「貸与権ビジネス」の基本スキームの確立交渉で合意に達し、2006年1月から実施されている。

10.翻訳権、翻案権等(第27条)
 「著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。」
著作物を現状のまま利用するのでなく、翻訳、翻案など改作利用の権利を規定したもので、改作利用によって生まれた新しい著作物は「二次的著作物」と呼ばれる。  翻訳とは「ある国語で表現された著作物を他の国の言語で表現すること」をいう。
 編曲とは「ある楽器のための楽曲を他の楽器で表現すること」をいう。
 変形とは「ある著作物の修正増減をいい、旧法19条の訓点、傍訓、句読、批評、注釈、付録、図画などを含む」
 脚色とは、「小説などの文学的著作物をト書き、舞台装置などを付して全体を書き換える」ことをいう。
 映画化とは「脚色された台本を元に小説などが映画化される」ことをいう。
 翻案とは、ある著作物に新たな創作的要素を加え、「外国の映画を背景を変えて日本の映画にする」ようなことをいい、写真を絵画にあるいは彫刻を絵画に変形する異種複製なども翻案に該当する。要約(ダイジェスト)は、翻案に該当するが、抄録(アブストラクト)は、翻案には該当しない。

11.二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(第28条)
 「二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、この款に規定する権利で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する。」
 二次的著作物は、当然のことながら、原著作物の利用を基礎としている。したがって、二次的著作物の利用に関しては、二次的著作物の著作者と同一種類の権利(保護期間は個別)を原著作者に認めた規定である。


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