出版メディアパル(Murapal通信)


出版学研究ノート2006年

海外出版事情

アメリカの出版・書店事情を考察する

出版メディアパル編集長 下村昭夫

概 要

 入手可能なアメリカの出版産業データを駆使して、非再販制度下で活躍するアメリカの出版産業の現状を把握し、日本の出版産業の現状との相違点を比較研究する。
 本稿では、アメリカ書籍出版協会などの6種類のデータから、出版産業の現状やアメリカの書店の現状を捉え直し、再販制度下での日本の出版産業との比較考察を行う。

1. アメリカの出版概況
 グラフ1は、『出版年鑑』2001年版〜2005年版に収録されているアメリカの出版概況を基に1998年から2003年までの6年間の推定売上額と発行点数をグラフ化したものである。
 『出版年鑑2005』によると、2002年の最終売上規模で223億9807万ドル(前年比6.4%増)、03年の中間予測規模は234億2057万ドル(前年比4.6%増)となっているが、03年から統計アイテムが変化し、「ブッククラブと通信教育のカテゴリーの統合、予約制参考図書のカテゴリーの廃止」などがあり、02年までとの連続性はない(商務省統計「センサス」の数字をアメリカ書籍出版協会AAPが調整を加えた数字)と報告されている。
 この売上データは、ボウカー社の統計年鑑「ボウカー・アニュアル」に収録されている出版統計からの引用になるが、2002年の総出版点数は、14万7120点、前年比で5417点(3.82%)増加している。なお、グラフ1では、2003年の中間集計が下がっているように見えるが、最終的には、16万点(前年比9%増)を超えるとみなされている。

2. ジャンル別推定売上げ
 グラフ2は、2003年の中間集計に基づく推定売上げ234億ドル)の内訳をジャンル別に表したもので、成人向けハードカバー24.52億ドル(−2.4%)、成人向けペーパーバックス14.65億ドル(−0.6%)、児童向けハードカバー6.98億ドル(+28.6%)、児童向けペーパーバックス4.49億ドル(−5.2%)など、一般書の合計は50.63億ドル(+1.2%)に達した。
 そのほか、ブッククラブ・通信販売13.09億ドル(−9%)、大衆向けペーパーバック12.18億ドル(−1.7%)、宗教書12.82億ドル(50.2%増)、専門書39.79億ドル(+3.6%)、小中高教科書42.9億ドル(+2.5%)、高等教育関連書33.91億ドル(+3.6%)、標準テスト5.92億ドル(12.4%)、その他23.15億ドルと好調である。
 このうち、大きな伸びを示しているのは、宗教書の50.2%増、続いて、日本と同じようにハリ・ポタ現象と思われる児童書28.6%増、標準テスト12.4%増などが特徴的である。

3. カテゴリー別出版点数
 グラフ3は、『出版年鑑2005』に収録されてるカテゴリー別の全書籍の02年の出版点数を表したもので、2000年には12万2108点、01年には14万1703点、2002年には14万7120点、03年の中間集計では14万6731点となっているが、03年の最終集計は、02年より9%増の16万点を超えると見られている。この統計は、ボウカー社の『ブック・イン・プリント』のデータベースに基づいて統計である。
 02年で見ると、トレード・ペーパバックス(一般書のペーパカバー本)が8万4056点と前年比で10.62%増(8073点増)と大幅に増加しているが、ハードカバー5万7785点(1177点減、2%減)、マスマーケット・ペーパーブックスは5346点(1514点減、22.07%減)となっている。
カテゴリー別の増減を見ると、23カテゴリー中13分野で減少しており、ノンフィクション部門では、教育の809点(20.67%増)、伝記の419点(8.57%増)哲学・心理の343点(5.43%増)スポーツ・娯楽の297点(7.84%増)などが特徴的である。なお、言語が10498点(355%)となっているが、これは、オンデマンド印刷方式で特定ジャンルのタイトルが1万点増加したための特異現象である。
 ● 本の価格
 本の価格を見てゆくと、2002年のハードカバーの平均価格は62.84ドルで前年より7.21ドルと前年の9.21ドルに比べ10.3%減と値下がりしている。マスマーケット・パーパーバックは6.39ドルで1.27%(8セント)上昇、トレードペーパバック31.33ドルで17.99%(6.87ドル)値下がりしている。ジャンル別の平均価格の推移は一様でなく、価格変動の要因・現象は捉えにくい。

4. アメリカの書店の推定売上げ
 グラフ4は、アメリカ小売書店協会の資料による書店の推定売上げを示しているが、1997年が126.88億ドル、98年が131.79億ドル、99年が139.46億ドル、2000年が159.02億ドル、01年が、168.42億ドル、02年が157.99億ドル、03年が168.09億ドル、04年が168.09億ドルとマイナス成長化の日本の書店売上と違い、順調な成長を示している。
 なお、04年の推定売り上げのうち、50%に当たる84億ドルを三大チェーン店が占めており、その内訳は、バーンズ&ノーブル(B&N)が42億200万ドル、ボーダーズが37億ドル、ブックス・ア・ミリオン(BAM)が4億6200万ドルとなっている。独立系書店の比率は年々下がってきているが、ABAには個性豊かな書店が参加し、出版文化を支えている。
 グラフ1で見たAAPの出版産業全体の売上げ234億ドルとABAの書店の推定売上げ168億円との違いは、アメリカでの書籍の販売ルートの多様性にあると思われる。
 成人向けハードカバーの販売ルート別シェアをみると、大型チェーン店22%、独立系・小規模チェーン店15.4%、ブッククラブ19.2%、ディスカウント店2.4%、ウエアハウスクラブ6.8%、ネット書店8.1%、ユースドブック5.0%、大規模小売店5.9%、メールオーダー2.6%、食品・薬局3.1%、マルチメディア0.8%、その他8.7%などとなっている。
 また、日本における書店の商品構成とアメリカの書店における商品構成が大きく違っており、小さな本屋さんは、書籍が中心で雑誌はあまり置かれていない。
 仕入れ条件については、一社ごとの条件があるが、仕入れ冊数が多くなればなるほど、掛け率が低くなる“ボリューム・ディスカウント制”が一般的で、「1〜4冊:7.5掛け、5〜49冊:6掛け、50〜99冊:5.9掛け」が基本となっており、「返品期限、返品量」の規制は厳しいが返品も許容されている。
 自らの書店の商品構成をどのようようにするのかは、一店一店の「書店のあり方」と大きく関わっている。また、再販制がなく、街の本屋さんは三大チェーン店のディスカウント商法と戦いながら、書店を維持する挑戦を続けている。

5. アメリカの雑誌売上げ
 2003年におけるアメリカの雑誌総数は17254誌あり、創刊点数は949誌ある。そのうち、大手雑誌社160誌の売上げは85%を占めており、寡占化状態である。
 グラフ5は、アメリカの雑誌の予約購読数と店頭販売数の推移である。2000年で見ると、予約購読数は3億1877万冊、84.1%に対し、店頭販売数は、6027万冊、15.9%ときわめて低く、日本における雑誌の売れ方とは、ちょうど逆転している。
 2000年の雑誌の推定年間売り上げは99億7400万ドルとなっているが、予約購読売上げ69億1500万ドル、69.3%に対して、一部売りの店頭販売額は30億5900万ドル、30.7%となっている(出所:Magazine Publishers America)。
予約購読者の獲得競争“ナンバーゲーム”が激化しており、再販制度がないため、雑誌のディスカウント商法は厳しい。実際の平均価格で比較すると、店頭販売価格3.83ドルに対して、年間予約購読価格24.41ドル(月額2.03ドル、約53%)となっている。
 また、アメリカの雑誌の広告依存度は極めて高く、50%を超えている。(出所:Hall's Magazine Report)。また、広告ページと編集ページの比率は、1980年代から2000年までは50%であったのに対し、01年には約45%、03年には約48%と広告ページの比率が減小している。新しい広告媒体としてのインターネット広告の比率が高まり、アメリカの雑誌ビジネスが、「量より質」への転換期を迎えていると分析されている。
 アメリカの雑誌販売ルートは、スパーマーケットが45%、ディスカウントストアが16%、書店が11%、ドラッグストアが9%、コンビニが6%、ターミナが6%、ニューススタンドが4%、その他が3%となっており、書店売りの比率が極めて低い。

6. アメリカの書店・取次
 グラフ6は、『出版年鑑2005』に収録されている2003年のアメリカの書店数である。
 この資料は、『ジ・アメリカン・ブック・トレード・ディレクトリー』(2003年―2004年版)によるもので、総書店数23643店となっており、特徴的なのは、一般書店5700店に対して、大学・一般3329店、宗教専門店3515店と多いのが目立つ。国土が日本の24倍もあるアメリカ全土で考えると、書店数は、極めて少ないといえる。
 なお、同資料によると、「古書店」とは、古刊本、稀覯本などを扱う古書店であり、いわゆるセカンドハンド本を扱う「古本店」と区別している。「大学」は、大学構内、構外を問わず大学レベルの教科書、参考書、専門書等を扱っている書店である。「コミックス」「料理」等等の専門店は在庫量の50%以上がその間連書であることを要する。「ペーパーバックス」はそれが80%以上である。「フェデラル・サイト」は国立公園、国が維持、運営する史蹟、遺跡に付属する書店である。「新聞販売店」「事務用品店」等はそれぞれの商品と併せて書籍、雑誌を販売している場合のみ収録となっている。
 1990年に発足したアメリカ小売書店協会ABAの会員数は、1993年の5200店がピークで、1998年には3300店、2001年には2300店、2005年には2115店と減少しているが、ABA加盟書店の推薦図書リスト「ブックセンス」などのマーケティング・キャンペーンを展開するなど読者へのサービスを強化して生き残りをかけた努力を積み重ねている。
 アメリカの書店界では、出版社からの直接購入が一般的な仕入れ方法で、出版社と書店の間に介在する卸売業者は地方卸売業者が主であったが、近年、全国規模のイングラム・ブックスやベーカー&テーラー(B&T)を利用するケースが増えてきた。
 卸売業者がたんにディストリビューター(配送業)にとどまるのでなく、全国規模の卸取次業(ホールセラー・ディストリビューター)に発展することが望まれている。

このページの著作権はすべて出版メディアパル編集長 下村昭夫が保持しています。
© Shimomura Teruo