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出版研究ノート

マスメディアと出版を考える

日本におけるマスメディアの現状(3)出版

出版メディアパル編集長 下村昭夫

第3回

 「新聞」「放送」に続き、今月号では、「出版」の現状と課題を考えてみよう

3. 日本における出版メディアの現状

 いま、日本の出版界は、この10年間のマイナス成長下にあり、産業のあり方をめぐって、かつて経験したことのない「苦悩」の中にある。
出版科学研究所によれば、2006年の取次ルートを経由した出版物の推定販売金額は、2兆1525億円と前年より2.0%減少、2年連続の前年割れとなった(出所:『出版月報07年1月号』)。
 内訳は、書籍が前年比1.4%増の9,326億円。雑誌は大幅減の−4.4%の1兆2200億円。雑誌の落込みは調査史上最大限のマイナスとなった。図9は、出版科学研究所のデータによる出版物の推定売上高である。

 出版産業は、1960年代から1975年までは2桁成長、1976年から1996年までは1桁成長、97年以降、連続的なマイナス成長となっている。
出版の推定売上が1兆円を突破したのが1976年、2兆円を突破したのが1989年のことである。1976年に、雑誌の売上が書籍の売上を追い越し「雑高書低」となり、雑誌が、出版産業の成長の推進力となった。80年代以降は「書籍4:雑誌6」の比率である。80年代の10年間の成長率は40.4%、90年代の10年間の成長率は、わずかに5.1%で、2006年の推定売上は、15年前の水準まで、落ち込んだことになる。

1.出版社の現状
 現在、活動している出版社数は『2006出版年鑑』によると、4,229社あまりであり、規模別に見ると、従業員数10名以下が2,217社、50名までが1,002社と88%が中小零細出版社である。そして、その大部分の3,315社が東京に集中している。また、これらの出版社のうち、480社が日本書籍出版協会に加盟している。
図10は、2005年度の4229社の売上高(ニッテン調べ)であるが、売上規模で見ると、上位300社で、80%を占めており、中小版元の経済基盤は弱い。なお、2,000社に及ぶ編集プロダクションが、出版社の「編集活動」を支えている。

出版科学研究所の調査によると1年間に1点以上の新刊書を発行する出版社は3,700社、5点以上の新刊書を発行する出版社は1,500社あまりとされている。

2.取次の現状
 取次―書店ルートは、日本の全出版流通の65%のシエアを担うメインルートである。大手取次の1日あたりの業務量は、書籍が200万冊、雑誌が450万冊に及ぶという。取次は、「仕入れ、集荷、販売、配達、調整、倉庫、情報、集金、金融」などのさまざまな機能を有している。
 日本の取次機構が雑誌の配本を中心に発達し、大量の雑誌配本と新刊書の配本を全国一斉に「一定マージン(通常8%)」で送ることのできる「世界に類を見ない配送システム」であることは良く知られているが、「一冊一冊の客注品」の対応には向かず、読者から見れば「欲しい本が手に入らない」「客注品が遅い」が出版流通に対する二大不満にさえなっている。
 この「客注対応型の書籍流通の必要性」が出版業界の共通の夢であるが、大手取次の「客注専用システム」の稼働などにより改善されてはいるが、その本格的実現の道は遠い。一方、さまざまなタイプのインターネット書店が登場し、「客注対応型流通システム」として、一定の役割を果たしつつあるが、販売額で見ると600億円程度と書籍の推定売上げの6.5%程度である。
 図11は、主要取次7社の売上げランキングである(出所:『文化通信』2006年5月1日号)。この10年、大手取次間の、「売上げ競争が激化」し、トーハン、日販への寡占化が、いっそう強まり、専門取次の鈴木書店の倒産に見られるように中小取次の苦難が伝えられている。

現在、日本出版取次協会加盟社は32社である。主要取次のうちトーハン・日販による二大取次の寡占化の進行は、二社で主要取次の扱い高の80%に及ぶ。大手取次の日常的な主要取引書店は8000店に及ぶ

3.書店の現状
 日本にある1万7000店の書店のうち、6500店が日本書店商業組合連合会に所属している。そして、これらの書店の大部分が50坪(165平方メートル)以下の小さな書店である。アルメディアの調査報告によると、この10年、毎年1000店以上の書店が転廃業を余儀なくされている。その一方で、大型チエーン店などの新規店の出店が相次ぎ、売り場面積は増大する一方である。図12は、書店上位384社の売上げ総額である(ニッテン調べ)。
 厳しい経済環境に加え、年商1200億円を超えたと見られる「新古書店」や年商800億円を超えたと見られる「マンガ喫茶」の影響など、書店を取り巻く市場経済は、一段と厳しくなっている。厳しい連続マイナス成長化での書店を取り巻く厳しい経済環境には、「再販制度(定価販売制度)の揺らぎ」「ポイントカードの普及によるマージン率の実質低下」「新古書店や漫画喫茶の進出」「公共図書館の貸出数の増大などによる売上減」「消費者の携帯電話による通信費の増大」「一店舗平均年間200万円に及ぶ万引の影響」などのような要因が考えられる。

4.地方・小出版の現状
 日本の出版社は4260社のうち、80%に当たる3300社あまりが、東京に集中している。大手取次と取次口座の開けない小出版社や地方在住の零細出版社の出版流通を一手に引き受けているのが、「地方・小出版流通センター」である。現在、1000社あまりの出版社と取次口座を持ち、2005年に新刊書籍を発行した出版社が543社3651点、雑誌が137社830点を市場に送り出している。その取扱量は、一日に5000冊、年間20万冊、24億円になる。

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 出版は、「本と人との出会い」で成り立っている。「本と人の出会いの場」が書店である。その書店が成り立たなくなっている現状からは、「出版の発展」は到底望めない。また、出版の自由は、その「流通の自由」なしには成り立たないといえる。だとすれば、「本の未来」は、「出版流通の活性化」なしには成り立たないといえる。

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© Shimomura Teruo