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出版研究ノート

マスメディアと出版を考える

日本におけるマスメディアの現状(1)新聞

出版メディアパル編集長 下村昭夫

始めに

 日本におけるマスメディアの発展状況を「新聞・テレビ・ラジオ・出版・広告・インターネット」などの各ジャンルごとにとらえ、産業のあり方と直面する課題について考察してみたい。
初めに 本稿でいう「マスメディア」とは何かということについて、最初に考えておきたい。
 一般に、情報(インフォメーション)とは、「文字・図形・言語などによる人間の意思表示」をいい、通信(コミュニケーション)とは、「さまざまなメディア(媒体)による意思の伝達」をいう。
このように考えると、「メディア」とは、「人と人の間に介在して、コミュニケーションを行うための手段・道具」としてとらえることが出来る(英語では、単体の媒体を指すメディウム(medium)と複数の媒体を指すメディア(media)に使い分けられる)。
活字メディアとしての「新聞・雑誌・書籍」、音声のメディアとしての「ラジオ」、映像と音声の複合メディアとしての「テレビ」が一般に「マスコミ四媒体」と呼ばれている。
従来型のメディアに加え、さまざまな電子媒体「CD・ビデオ・DVD」あるいは「映画」なども対象となり、現在では、「インターネット」が最大のマスメディアと捉えることもできる。
マスメディアとは、これらの媒体を駆使し、大量の情報を不特定多数の人々に送り届けるための伝達システムとして位置づけられるが、マスメディア(マス・コミュニケーション)の「自由な発達」とその国における「民主主義の発達」の度合いには、ある種の相関関係を見出すことが出来るといえよう。
また、マスメディアは、同時にその国のおける基幹メディアと位置づけられ、ジャーナリズムしての「社会的役割」が大きく、国家権力に対する「社会的監視機能」を問われることが多い。したがって、マスメディアは、国家権力から「自由」でなければならないと主張されている。
今日、イラク戦争などに対するさまざまな状況を見るとき、国家権力による「情報操作」に惑わされることもしばしばあり、ジャーナリストの役割は、情報の送り手として、情報の受け手としての国民の「知る権利」(選択する権利・読む権利)を確保することであり、取材の最前線にいるジャーナリストたちの「第三の権力」としての自覚が、改めて、問われている時代ともいえよう。
なお、本稿では、これらのジャーナリズム論には触れず、マスメディアの産業状況に焦点を絞って、日本におけるマスメディアの状況を考えることにしたい。

T. 日本のおける新聞メディアの現状

1.各国の新聞発行部数と普及率
 日本の新聞の発行部数と普及率は、世界的に見て、極めて高い水準にある。一般に、日本の新聞は、「朝刊・夕刊」がセット販売されており、両者を分離しないで一部と数えており、その発行部数は、一日に5302万部に達している。この日本の新聞の高度な発展を支えているのが、新聞の「宅配制度」であり、毎朝4時〜6時までには「朝刊」が、また、午後3時〜5時には「夕刊」が、読者の自宅に宅配されている。
 図1は、世界新聞協会の「World Press Trends」のデータであるが、第1位中国8547万部、第2位日本7081万部(朝刊と夕刊を個別に数えて部数)となっており、続いて、アメリカ5518万部、インド3108万部、ドイツ2326万部、イギリス1918万部、イタリア790万部、フランス787万部、パキスタン600万部となっている。
 図2は、同資料に基づく、成人1000人当たりの発行部数であるが、第1位アイスランド706部、第2位ノルウェー684部、第3位日本647部となっており、続いて、スウェーデン590部、フィンランド524部、ブルガリア473部、マカオ449部、デンマーク437部、スイス420部、イギリス393部となっている。
 なお、1000人当たりの普及率でみると、発行部数の多い国でも、中国91部、アメリカ263部、ドイツ322部となっており、日本の新聞が発行部数と普及率の両方から見て極めて高い水準にある。

2.全国紙の状況と問題点
日本の巨大全国新聞は、部数の大きさに関わらず、いま、きびしい経済状況にある。一つには、「朝刊と夕刊」のセット売りが崩れ始めており、セット部数は、1990年の2061万部から04年の1734万部(全体の32.6%)に後退しており、「朝刊のみの読者」が急増していることである。その日の「情報の速さ」を誇っていた「夕刊」の役割が、テレビやインターネットの影響を受け、その位置づけが後退したためといわれている。なお、発行部数を世帯数で割った世帯普及率は、1980年代の1.3部から2004年には、1.06部に後退している。
 二つ目には、広告収入の停滞が上げられ、三つ目には、宅配制度を支えてきた「新聞配達体制の維持」(配達専門店2万1000店)や「再販制度のゆらぎ」など、さまざまな困難な問題を抱えていることである。
 新聞社の収入は、販売収入と広告収入の二本立である。2003年度の新聞界の総売上は2兆3979億円で、販売収入は1兆2832億円(53.6%、前年比99.8%)、広告収入は7808億円(32.0%、前年比89.9%)、その他の事業収入が3339億円となっている。とりわけ、90年代後半から、大きく広告収入の比率が低下している。新聞は、70年代後半に、広告媒体としての首位の座をテレビに奪われ、昨今では、日本の広告費用全体が伸び悩む中で、インターネット広告などの脅威も受けているといえる。

3. 全国紙と地方紙・スポーツ紙・フリーペーパー
新聞を発行形態別に分類すると、全国に販売網を持つ「全国紙」と特定の地域のみに販売網を持つ「地方紙」に分かれ、さらには、「スポーツ専門紙」やさまざまな業種別の「専門紙」などに分類することが出来る。
 (1)全国紙:日本の全国紙は、『読売新聞』(1007万部:36%)、『朝日新聞』(827万部:30%)、『毎日新聞』(400万部:15%)、『日経新聞』(302万部:11%)、『産経新聞』(213万部*8%)と5紙で2749万部となり、総発行部数の52%を占めている。なお、図3は新聞の総発行部数と日本の人口比率を表している。

 (2)地方紙:地方紙の現状を見ると、ブロック紙としては、『北海道新聞』122万部、『西日本新聞』85万部(九州地域)、『中日新聞』275万部[東海3県]がその代表的新聞である。
一県一県を中心とする県紙には、『静岡新聞』74万部、『中国新聞』72万部(広島)、『東京新聞』62万部などが大きな部数を誇っている。なお、福島県と沖縄県には、県紙が二紙存在している。
 地方紙の世帯普及率は、さまざまで首都圏や大都市圏では、全国紙の普及率が高く、神奈川県で見ると、全国紙の普及率が75.1%あるのに対して、県紙の『神奈川新聞』と『東京新聞』(中日新聞社系)の両氏を合わせて8.39%程度である。これに比べて、徳島県では、県紙『徳島新聞』の世帯普及率が84.8%と、全国紙の16.8%を大きく上回っている県もあり、それぞれの地方紙が、その「県独自の情報発信の基地」となっているといえる。
 同時に、それぞれの地方新聞社が積極的に地方出版の源ともなっており、各地域における世論形成や地方文化の育成を担っているといえよう。図4は、全国紙と地方紙・スポーツ紙のシエア率を表している。

 (3)スポーツ紙:全国的に発行しているスポーツ紙には、『日刊スポーツ』205万部(朝日新聞社系)、『スポーツニッポン』172万部(毎日新聞社系)、『サンケイスポーツ』137万部(産経新聞社系)、『報知新聞』151万部(読売新聞社系)、『デイリースポーツ』100部、『中日・東京スポーツ』88万部などのほか『東京スポーツ』『大阪スポーツ』「九州スポーツ」などが発行されており、日刊紙の総発行部数の10%、538万部を発行している。
スポーツ紙のうち、新聞社系列の販売網を利用するものもあるが、基本的には、「駅売り」などの即売方式が多く、その日の情報やイベントによって、1日ごとの販売数が変動する不安定さは否めない。
(4)フリーペーパー:広告収入に依拠した無料のフリーペーパーが急増している。産経新聞社系の『サンケイリビング』などがその代表格であり、多くの地域で「リビング紙」を発行しており、その総数は853万部に及ぶ。『東京新聞ショッパー』160万部や首都圏の若者に焦点を合わせた『R25』55万部など、テーマはさまざまであるが、生活情報やイベント情報を中心に地方根ざした情報発信で広告収入を確保している。
(5)インターネットと新聞:昨今では、大半の新聞社が「新聞」だけでなく、インターネットを通じて、情報を発信しているが、Webページはほとんどが「無料」で提供されており、広告収入の確保や「有料サイト」の検討が課題となるが、当面は、読者サービスとして運用せざるを得ないのが現状である。

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