本作りこれだけはQ&A 出版技術講座


4.3  著作権の実務知識

謝 辞この著作権の実務知識honは、2001年10月20日に行われた、「第10回関西出版技術講座」のために、ネッツ関西の皆さんのご協力をえてまとめたものです。
Q1:プロダクションを通して依頼された広告出版物のために執筆した文書が、無断で関連会社のHPやメールマガジンにも転載されていた。どのように対処すればよいのでしょうか?
A1:具体的な作品とその再利用の事例を見ないとわかりませんが、例えば、書評を依頼され、その書評が「ある雑誌」に掲載された後にホームページに掲載されたとします。
 この場合、「二次利用」または「二次的利用」に当たるわけですが、本来なら、著作権は、「権利の束」といわれていますので、それぞれの「メディアごとに権利が発生する」と考えられますが、「請負い仕事」の場合、ほとんどが「一時支払い」であると思われます。必要な場合は、「契約」で「その利用の範囲」を定めることも考えられます。
Q2:執筆した文書の内容を無断で書き直された。しかも書き直された内容に誤りがあった。どのように対処すればよいのでしょうか?
A2:著作者には、「著作者人格権」(公表権・氏名表示権・同一性保持権)の三つの権利があります。このケースの場合、「同一性保持権」の侵害に該当すると考えられます。
 同一性保持権とは、「他人に自分の作品を勝手に改ざんされない権利」を意味します。
 ただし、「著作物の性質やその利用の目的、態様に基づいて判断してやむを得ないと見られる改変」などは許されています。
Q3:ネットの普及によりコンテンツ(テキスト、表やグラフなどのデータ、画像など)を簡単に複写することが可能になり、著作権侵害の可能性が高まってきている。このなかでどのように著作権を守っていくのか。また逆に、どういう範囲でなら複写・引用が許されるのか。
A3:インターネット上に提供されているデジタル情報は多くの場合、「無料」で提供されていますが、「著作権」は留保されています。たとえ、「著作権フリー」という表示があった場合でも、一定の条件の下での「複製」は「自由」ということであり、商業利用の全てに「自由」という意味ではありません。
 お尋ねのデジタルコンテンツの「権利保護」の手法に「著作権管理情報」(著作権者名、連絡先、利用許諾条件)の明記や「電子透かし」などの方法が提起されています。
 デジタル情報、アナログ情報に拘わらず、著作権法上、複製権などの権利は同等です。引用(適法利用)と違法使用(無断使用)の違いは、「4.2」をご参考ください。
Q4:インターネット上での匿名の第3者による著作物画像の無断使用について、どう対処すればよいか。
A4:フォトライブラリなどでは、「電子透かし」(デジタル画像の一部に人間の目には識別できない程度の階調の変化をつけた電子的プルーフマーク、エレクトロニック・ウォータマーク)が、実際に使用されています。
 アドビ社の「フォトショップ」のプラグインツールにアメリカのデジマーク社の「デジマーク」がすでにバンドルされており、抽出ビューアーを用いることで、違法利用のチエックが可能になります。
 なお、デジマーク社のほかに、アメリカのダイス社やイギリスのハイウォーター・シグナム社などで電子透かし技術を応用したデジタル画像やデジタル音声の「著作権管理サービス」の提供をWeb上で行っています。
Q5:クライアントによる、著作物(原画)の紛失や損壊への対処と求められる補償はどのように考えればよいのでしょう。
A5:トラブルによる「著作物(原画)の紛失や損壊への対処と求められる補償」は、著作権法の問題ではありません。一般的な「民事補償」の問題としてお考え下さい。
 仕事にトラブルは付物です。できるだけ「原画」での提供を避け、複製した「ポジフイルム」で提供するか、予め「トラブルのあった場合の補償を提供条件に明示する」ことも考えられます。
 デジタルデータの場合は、貸出し用の「移動用データ」で提供することをお勧めします。また、「原画要返却」「MO要返却」などとラベルに明記しておくのも一つの方法です。
Q6:クライアントによる「アレンジ」と称した著作物(原画)への無断での改ざん・変更について、どのように対処すればよいか。
A6:同一性保持権との関連で述べた「著作物の性質やその利用の目的、態様に基づいて判断してやむを得ないと見られる改変」について改めて考えてみましょう。
 加えられた「改変」が、例えば、本の装丁上「やむを得ない範囲かどうか」が問われることになります。その作品の提供に当り、利用形態などよく確認するとともに「校正」なども「必ず見る」慣習が重要だと言えます。
Q7:ビジュアル・デザインを発注した際、納品を受けるデータは一つのファイル形式だけに限定されるのか。納品後、クライアントの側で別のファイル形式に変更することは、上記の改ざん・変更にあたるのか。たとえば、ファイル形式が異なることによって色味が変わること、あるいは出力の際の技術的な問題でデザインが変わること(局面に印刷するためにゆがむ、スクリーンに投影する際にゆがむ、なども含め)がおこりうるが、やはり改ざんにあたるのか。現実的にどこまでは許されるのか。
A7:加えられた「改変」が、「やむを得ない範囲かどうか」が問われることになります。カラー印刷の基本原理は、「YMCK」(イエロー・マゼンタ・シアン・ブラック)の4原色のプロセスインキで印刷されます。
 これに対して、ディスプレィ上のカラー再現は「RGB」(レッド・グレーン・ブルー)の3原色で行われています。「RGB」データは、製版用データとしては、「YMCK」に変換され、カラー再現に「微妙な変化」が生じます。印刷用に提供するデータは必ず、「YMCK」で保存したものをご使用ください。
 また、局面利用などの特殊なケースは、許諾の範囲内での利用に心がけ、著作者と利用形態をよく話し合うべきだといえます。
Q8:テキストベースの仕事にしろ、ビジュアル・デザインにしろ、クライアントの編集はどういう場合、どの程度認められるのか。逆に、ライターやデザイナーはどこまで責任を持たなければいけないのか。たとえば、「てにをは」の修正とか、用語の統一などに関しては、放棄しても構わないと自分(ライター)は考えており、仕事の内容によっては(独創性のある著作物というより、規格が決められているものの場合)編集作業に一任してもよいと思うこともある。
A8:ハウスルールの適応も含め、「著作物」の利用に当り、利用する側が「著作者」の「著作権並びに著作者人格権」を尊重しながら、その複製に当たることが重要だと言えます。
Q9:納品を受けたデータをクライアントがある程度自由に編集、修正したいと考えた場合、どういう契約(権利放棄、支払い)が必要か。
A9:利用目的・利用形態・支払方法・権利関係など、作品の提供者(著作者)と明確に話し合うこと(または契約)が重要と言えます。


©2001年 Shimomura