本作りこれだけはQ&A 出版技術講座


3.1  出版流通の基礎知識 1

Q:日本の出版流通の現状をお教えください。
A:日本の出版流通は複雑ですが、基本的には、「取次−書店ルート」を通して読者に届けられます。出版科学研究所からは、取次を通った出版物の販売実績のデータが「出版月報」で発表されますが、その他のルートの流通データは、公表されておりません。
毎年、「新文化」紙などを通じて発表される(株)ニッテン会長の武塙 修氏の分析によると、1996年度の実績で、「書店ルート;68.2%、教科書ルート;1.0%、図書館ルート;2.4%、輸出入ルート;0.9%、生協ルート;2.0%、割販ルート;0.8%、スタンドルート;1.3%、CVSルート;16.3%、卸売ルート;8.6%、鉄道弘済会ルート;2.0%」などとなっています。
Q:日本には、出版社や書店の数は何社くらいあるのですか?
A:「出版年鑑」(出版ニュース社)の1995年度版によると、出版社の数は、4487社となっており、うち75%に当たる3316社が東京に集中しており、大阪;214社、京都;135社、神奈川;74社、愛知;54社、埼玉;45社となっています。また、取次は42社、日本書店組合連合会加盟の書店数は11205店(通産省の“商業統計”では26000店余り)となっています。
Q:本や新聞の“再販制”が話題になっていますが、どんな制度ですか?
A:再販制度(再販売価格維持制度)とは、メーカーである出版社が、末端価格である“定価”を決め、“再販契約”を結んで、取次や書店などの販売先に“定価販売”を義務づける制度のことです。
一般に自由主義(資本主義)経済の下では、商品の取引は、“自由”であることが原則で、メーカー側が“定価販売”を義務づけることができませんが、本や新聞などは「文化的価値を社会的に平等に享受できる」ようにとの配慮から、独占禁止法の適用が除外(独禁法第24条の2項)されている数少ない商品の一つとなっています。
Q:再販制度がなくなるとどうなるのですか?
A:公正取引委員会の主張は、「再販制を外すことのより、自由競争の下で、“本の定価”が安くなり、消費者の利益になる」とのことですが、出版界は、日本の出版産業の状況からすれば、再販制がなくなることにより、「出版社や書店の倒産が増加する」「初版部数の減少から、本の定価は上昇する」「出版点数が激減し、豊かな文化財が供給できなくなる」「必要な本が書店に並ばなくなる」など、かえって、読者(消費者)の不利益につながると、再販制の擁護を広く国民に訴えています。
Q:再販制と並び出版流通を支える委託制とは、どんな制度ですか?
A:委託制度とは、出版社や取次が、書店に対し出版物を配本し、販売を委託し、書店は配本された出版物を販売し、一定に期間内であれば、“返品”できる制度です。
書籍の委託には、新刊委託;通常105日間、長期委託;4ヶ月〜6ヶ月間、常備寄託;通常1年間(本来は“委託”であるが、税法上社外在庫として扱われる)の三つがあります。
雑誌の委託期間は、週刊誌;45日間、月刊誌;60日間、コミック・ムック;60日間となっています。
委託期間の過ぎた商品や、“注文品”“買切品”などは、売れ残っても返品できません。
Q:再販制の議論は、結局、どうなったのですか?
A:公正取引委員会は1998年3月31日、「著作物の再販制どの取り扱いについて」の見解を発表し、「競争政策の観点からは廃止の方向で検討されるべきだが廃止された場合の影響について配慮と見当が必要」と当面、出版物など6品目の再販制の運用が容認されましたが、同時に、「再販制が硬直的・画一的に用いられている傾向があり、時限再販や部分再販などの弾力的運用」が必要と、業界の自主的努力を促しました。
また、公正取引委員会は12月2日付で「著作物再販制度下における関係業界の流通・取引慣行改善等の取組状況等について」を公表、平成13年春に「制度の存廃の結論を得る」としています。業界全体が、広く消費者と対話し、再販制の必要性を訴えるとともに、出版流通の抱える諸問題の改善の努力を怠らないことが、今、求められているといえます。


©1998年 Shimomura